理念

合成・生物化学専攻は「合成化学と生物化学との学際領域を目指しての、物質合成の基礎と応用、バイオテクノロジー、物質変換の理論等の確立」を目標として平成5年に設立されました。

従来、合成化学と生物化学は独自の発展を遂げてきました。
合成化学の主たる目的は物質を構成する分子の構造・物性・相互作用の相関関係を理論・実証の両面から考察し、多彩な構造と機能を合理的に設計する指針と、効率よく合成する手法を確立することであります。

医薬品であれ集積記憶素子であれ、機能(インテリジェント)物質の発見が私達の生活の質を飛躍的に向上させ、新しい産業基盤を生み出してきました。分子と その集合体は構造/機能に関し無限の多様性と可能性を秘めており、人類にとって機能物質の探索が終わることはないでしょう。

生物化学は生命現象に関わる物質の構造と役割を化学的に明らかにすることを主な使命とし、生命科学技術の発展に大きく貢献してきました。
近年、合成化学と生物化学のバリアは狭まる状況にあります。

合成化学においては、構造なり機能なり合成なり、目指すべき究極の手本が生物の合目的性にあるとの認識が、生物化学においては、多様性と特異性を有する合 成化学の産物や分子設計の手法が、生命現象の解析や修飾・改変、分析・診断などに大きな威力を発揮してきた事実が、その背景にあります。

歴史的には、生物の研究は全体から部分へ(個体から器官へ、器官から細胞へ、細胞から生体分子へ)、すなわち解析的なトップダウン型の道を辿りました。一方、合成化学の手法は簡単な分子からより大きな、より複雑な系を組み立てるボトムアップ型であります。

両者が交わる、いわゆるナノ領域は、生体においてはタンパク質や核酸などの機能素子が物質変換や電子移動、エネルギー産生、情報処理などの高度機能を発揮する場であります。

物理的であれ、化学的であれ、生物的であれ、技術革新の要がナノ領域の制御にあるといっても過言ではなく、それを支えるナノテクノロジー、バイオテクノロジー、さらにはそれらを融合したナノバイオテクノロジーが化学と生物の学際領域として重要である所以でもあります。

合成・生物化学専攻では、基礎科学の振興と応用の立場から合成化学、生物化学を推し進めるとともに、その学際領域を創造性豊かな化学生物学(Chemical Biology)の研究分野として確立することを理念・目的としています。

そして、専攻全体として、分子レベル/ナノレベル/バイオレベルそれぞれの階層における構造制御/物性制御/機能制御/システム制御を理論的な視点と分子 テクノロジー/ナノテクノロジー/バイオテクノロジー/ナノバイオテクノロジーの方法論を駆使した総合精密科学として推進します。